僕と雪女
1 仲馬倶楽部(なかまくらぶ)
恭ちゃんをメールで誘ってみると、秒速でOKが返ってきた。オーナーの健太さんにも連絡してみると、こちらも二つ返事だった。
「おう、二人とも生きてたか! 馬たちに忘れられないうちにおいでよ。クリスマスに来るって? いいとも。でかいケーキを用意しとくよ」
その年のクリスマスは珍しく雪が降り、仲馬倶楽部も白一色だった。僕は八百屋で一番立派なニンジンをいっぱいに盛り付けてリボンをかけてもらった籠を持ち、朝早くに家を飛び出した。
我孫子駅で待ち合わせた恭ちゃんも同じような籠を抱えていたので、二人は大笑いだった。祖父の家には寄らずにタクシーで真っ直ぐ仲馬倶楽部に向かった。
はやく行きたくてソワソワした。クラブハウスは通り過ぎ、恭ちゃんと二人、全速力で馬房に駆け付けて叫んだ。
「メリークリスマス!」
六頭が一斉にこちらを見て鼻の穴を膨らませた。チビは特上のニンジンを待ちきれないように蹄(ひづめ)で寝藁(ねわら)を蹴散らした。馬房は懐かしい敷き藁と馬のおしっこの匂いがした。僕はアートに近づき首を抱き締めた。
「ごめんよ、ちっとも会いに来ないで」
アートはうんうんと頷き、柔らかい鼻先で僕の耳をくすぐった。
「よう、来たか。メリークリスマス! 雪でなければ乗せてやるんだけどな」
現れた健太さんに、僕が一番聞きたかったことを恭ちゃんが聞いてくれた。
「有紀ちゃんは?」
健太さんはちょっとの間下を向いていたが、僕と恭ちゃんを交互に見て言った。
「君たちには知らせてなかったな……今井さんの希望で、誰にも言わなかったんだ。今井さん自身も認めたくなかったんだな。俺も信じられない」
胸騒ぎがした。先を聞くのが怖かった。
「有紀ちゃんは……有紀ちゃんは亡くなったんだよ」