そのまま嗚咽を漏らし、身体が震えながら涙が流れるままにじっと穴が空いたアタッシュケースを見ていた。
長い間そのままで居る内に片膝がガタッと落ちた、一瞬寝ていたようで、膝を下ろしゆっくりと立ち上がって、ベッドへ行き倒れ込むように横に成った。
寝返りをうって天井を見ていると少し頭がすっきりし目が冴えてきた。
ピストルで撃たれるなんて誰も経験したことが無いようなことを……でも生きている!
何に対してかは分からないが、生きていることに心底感謝した。
あの男が、此処までするとは……人を殺す事が平気な男に狙われるなんて思いもしなかった。
この先、何をされるか想像もつかない! 怖い! どうしよう? 怖い!
出来ればこのカバンを早く返して元に戻りたい! と切実に願ったが、今更返せる筈もなかった。あの列車で亡くなった男はその後どうなっているだろう?
そうだ! テレビで何か放送しているかも知れない! 飛び起きてテレビをつけニュースを探したが、もう十二時を過ぎていて深夜バラエティ番組ばかりだった。
テレビを消してバスルームへ行き、湯船にお湯を張り部屋へ戻って力が入らぬままゆっくりとリュックの中から一つずつ着替えを取り出した。
正面の物入れベルトを外してドル紙幣を出し、上袋のチャックを開けてブレスレットを取り出すとチェーンが弾に当たって切れていた。
ブレスレットを横に置いたままアタッシュケースを開け、ブリーフケースを取り出したら弾が貫通した穴が綺麗に2カ所空いている、本当に危ないところだったな! とため息をついた。
バスルームで大きくゆったりしたバスタブへゆっくりと身体を沈めると、程良い温かさが全身を巡り、今迄の緊張が解れる気がしたが、ピストルで撃たれた恐怖が心の隅にこびりついていた。
バスルームから出て、掛けてあるバスタオルで身体を拭いた後、バスガウンを着るとそのままベッドへ倒れ込んだ。
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