最初は渋っていた国生も、女性の誘いを無視するのは失礼だとか、スリーサイズを訊く義務があるとか、期待に応えてこそ男だとか、もっともらしい御託をしつこく並べ立てられて、とうとう根負けしてしまった。
裏通りを歩いていると、先のビルから突然、派手なシャツを着た男が飛び出して来た。男はこちらへ駆けて来たかと思うと、後方を振り返った拍子につんのめり、長い金髪を振り乱して豪快に倒れ込んだ。
続けて金髪男が出て来たビルから、三人の男が現れた。その内の二人はかなり若く、お世辞にも趣味がいい身形(みなり)とは言えない。雰囲気や服のセンスを見る限り、金髪男と同類だ。
最後に出て来た男は、チンピラ風の二人よりずっと年長で、明らかに格上の貫禄を漂わせていた。仕立てのよさそうなダークスーツを着た、四十絡みの逞しい大男だ。
金髪男は背後に迫る男たちに気づくと、ポップコーンが爆ぜるように飛び起きて細い路地へと姿を消した。逃走の一部始終を見届けた大男は忌々しげに唾を吐くと、悠然と出て来たビルに引き返して行った。
「逃げた金髪、顔に殴られた痕があったな。ありゃ相当腫れるぞ」
純也が珍しく真顔になっている。彼が萎縮するということは、かなりの深手だろう。もし一人でここに来ていたら、この裏通りをさらに進む気にはならなかったかもしれない。
目的のビルに着いた国生たちは、薄暗いエレベーターホールに立ち尽くしていた。見たところよくある共同ビルで、人の出入りはあまりなさそうだ。
辺りには顔がやっと判別できるくらいの薄明かりしかないが、エレベーターの前だけは無駄に明るいスポットライトが当たっている。雰囲気を出すためなのかもしれないが、来客のことを考えるとエントランス全体を明るくするべきだろう。
看板らしきものがないので、ここが目的地なのか確かめようもない。恐る恐るエレベーターに乗り込むと、予想に反して中は普通のエレベーターだった。ボタンを押すために振り返る。すぐに指が行き場を失った。
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