「カジノバーねえ。こんなところにあったかな」
歓楽街の表通りから一本入ると、そこは昼夜問わず闇がこびりついている裏通りだ。暗く侘しい雰囲気だが、辺りのテナントビルが軒並み派手な看板を掲げているため、それはそれで独特の華やかさがある。
裏通りには、客引きはおろか通行人もほとんどいなかった。ここは繁華街の隅に位置する、古い雑居ビルが身を寄せ合う寂れた区画だ。
辺りからはちらほらと薄い光が漏れているが、入り口に掲げてあるのは店名しか書かれていない看板ばかり。外からでは、何の店だかさっぱりわからない。
純也は黒いカードを片手に、何度も頭を振って記憶を混ぜ返しているようだ。世理が国生に渡したそのカードは実にシンプルで、黒地に白文字でカジノバーの店名、電話番号、周辺の簡単な地図が記されているのみだった。どうやら目的地は、この裏通りを進んだ先のようだ。
「俺はついて来てくれなんて言ってないからな。遊び呆けてると本当に就職口がなくなるぞ」
並んで歩く純也を横目に見ながら、国生はきつく念を押した。
「大丈夫、明日からちゃんとやるって。それより、大事な友達が夜の街で危ない目に遭ったらどうする」
純也は暢気に答えた。友を心配しているような口振りだが、面倒を先延ばしする口実に飛びついただけだろう。ただ、この辺りは純也の言う通り、物騒な噂が絶えない区画だ。本音を言うと、街を歩き慣れている彼の同行はとても心強かった。
世理が食堂を去った後、国生は純也と壮亮が待つ席に戻り、一部始終を話して聞かせた。純也はその顛末を面白がり、ならば誘いに乗るべきだと主張した。