「だって、死んじゃうなんて思ってなかったし」

「でも実際、死んじゃったんだし。不凍液を食事に混ぜたのは美代子ちゃんでしょ」

もちろん毎日少しずつ不凍液を食べさせるだけじゃ、確実に殺すことはできない。体調を崩し始めたのを見計らって、止(とど)めを刺すためにちゃんと量を追加しておいてあげた。

ハダカデバネズミそっくりの父の死に顔を思い出して、思わず笑みが零れる。

「ばれたら無期懲役ってところかしら」

「そんな」

「いいじゃない。ばれてないんだから。もう三年以上経ったし、自白でもしない限りばれる心配はないと思うけど」

「そういう問題じゃないでしょ」

「じゃあどういう問題?」

気色ばむ母に呆れた声で返す。

「いいじゃない。不潔でケチで騒々しい浮気夫は死んで、遺産と家が手に入った。遺族年金もあるから生活もできる。これ以上ないハッピーエンドでしょう」

「あんたは悪魔よ」

「やだ、センスのない罵倒」

雪子はくすくす笑った。どうせ母に、娘を道連れに警察に捕まる根性はない。負け犬がいくら吠えようと痛くも痒くもなかった。それに、いざとなれば母も殺せばいい。しないのは大してメリットがないからだ。生かしておくことのデメリットのほうが大きくなれば、その時は容赦しない。

              

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次回更新は2月9日(日)、22時の予定です。

   

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