「用意って……」
「明菜ちゃんは明菜ちゃんで、叔母さんのおさがりなんてヤダってわがまま言ってたし。それにあの赤い着物、私のほうが似合ってたわ」
雪子はうっすらと桜色の唇を吊り上げた。
桜吹雪を散らした赤い着物は、色黒で金太郎みたいな明菜ちゃんには少しも似合っていなかった。なのに明菜ちゃんときたら、正月に集まった時、前撮り写真を見せびらかしてきたのだ。「も~、お母さんのおさがりなんて最悪でしょ。それなら雪ちゃんみたいにスーツを着て出るほうがまだましだよ」と笑った顔は、反吐が出るくらい厭らしかった。
だから一緒に行った初詣で、怪我をしてもらった。自慢しなければわざわざ奪おうとも思わなかったのに、バカな子だ。
「あんた、おかしい。狂ってる。まさかそのダイヤも……」
母が黄ばんだ眼玉をひん剥き、白髪だらけのぼさぼさの髪を掻きむしる。あまりにみっともない姿に、雪子は思わず溜息を吐いた。この女の腹から産まれたのが、人生いちばんの不覚かもしれない。せめてもの救いは、ブルドッグ顔の母にもハダカデバネズミの父にも似ず、遺伝子がいい塩梅にブレンドされたことだ。私を美人に産んだことは、母唯一の功績といってもいいだろう。
「ねぇ、美代子ちゃん、人のこと言えるの?」
「あれはあんたが」
「何度も言うけど、実行犯のほうが罪は重いのよ」
「でも……」
「手を汚したのは美代子ちゃん。証拠の音声もある」
雪子は言いながらスマートフォンの録音を流した。途端に母の顔が青褪める。
「この録音が流れたら、美代子ちゃんは殺人犯だってばれちゃうね。私のはただの教唆。それも『ネットではみんなやってるから』って言っただけ。つまり美代子ちゃんの罪のほうが重いの。分かる?」