薄っぺらなブルーダイヤ
朝の満員電車は人の臭いで溢れている。その臭いにムカムカしながら揺られているうちに、電車は支所のある緋桜町駅のホームに着いた。
いつもどおり、男子高校生たちが床に放り出している鞄をまたぐ。蹴飛ばしてもいいやと思っていたら、本当に蹴飛ばしてしまった。
「うわっ、蹴られたし、マジ最悪」
「謝れっつーの」
男子高校生たちが不平たらしい目でこちらを見ていたが、気にせず雪子は通り過ぎた。
彼らは隣駅のS工業高校の生徒だ。いつも階段にいちばん近いドアの入り口を占拠している。
リーダー格の茶髪にピアスの少年は、片耳のイヤホンから騒音としか思えない音楽を盛大に漏らしつつ、これといって特徴のない残りの二人の男子高校生と大声でしゃべっている。ほかの乗客たちが迷惑そうにしながらも誰一人文句を言わないので、いつも入り口でふんぞり返って通行妨害をしていた。
雪子の快適な通勤を邪魔する彼らは、次の材料候補だ。虚勢で取り繕った張りぼての恐ろしさに惑わされて、ほかの乗客が文句を言わないのをいいことに、傍若無人に振る舞うさまはいかにも醜い。若い頃は尖っていたなどと、大人になってから彼らが英雄譚のように話す姿を想像しただけで、鳥肌が立つ。
だったら私が美しく変えてあげればいい。
三人のうちいちばんうるさくて派手な茶髪の男子高校生が、第一候補。彼がいなくなれば、朝の通勤中に聞きたくもないロックを聞かされることも、毎回鞄をまたぐこともなくなるだろう。
雪子は弾む足取りで職場に向かった。
最近、職場の同僚たちまでもがダイヤの材料に見える。仕事に集中しているつもりでも、ふとした瞬間に、不安定な輝きで頭の中がいっぱいになる。
早く次のダイヤを作らないと。
でなければきっと、抑えきれずに手近な材料に手をつけてしまう。