たとえば明美なんかどうだろう。ザ、近所のおばさん。お節介で少し鬱陶しくて、自分を善人だと信じて疑わない愚か者。彼女の骨はどんな色の青になるだろう。
「最近、ごきげんね。なにかいいことあったの、雪子ちゃん?」
「いいえ、いつもどおりです」
不思議そうに首を傾げる明美に、雪子はふふふと口の端を緩めた。
茶髪の男子高校生は「たっちゃん」と呼ばれていた。おそらく「タツ」のつく名前だろう。タカシやタクミなら、「たかちゃん」か「たくちゃん」になるはずだ。住民データの名前の検索欄にタツと入れる。タツヤ、タツマ、タツキ……候補が多すぎて絞れないので、検索条件を追加する。
住所はN中時と話していたのでN町、生年月日は、彼らが高校二年生で、この前の誕生日に入った臨時収入が早くも尽きそうだと言っていたので、二〇〇八年の六月生まれだろう。
運命みたいに一人だけヒットした。N町××番地×、六月十九日生まれ、川瀬(かわせ)巽(たつみ)。ちょうどいいことに住所は飛熊駅前交番の管轄範囲だ。日頃の傍若無人な振る舞いが、思わぬ報いとなって返ってきた時の彼の顔が、今から楽しみだった。
残りの二人も調べようと思っていたが、面倒だしやめた。どうしてもダイヤにしたくなったら、巽を捕まえた時に、必要な情報を聞き出せばいい。
雪子はなに食わぬ顔で仕事に戻った。
仕事をしながら、どんなふうに巽を殺すか考える。絞殺、薬殺、撲殺、刺殺、なんでもいいような気もしたが、あんなに美しい宝石になるのだ。材料を加工する過程にもやっぱり拘りたい。葱は過酷な状況で育つほどおいしくなる。とびきり苦しくて痛い殺し方がいいかもしれない。
仕事なんてやっていられない。
早く巽を殺したい。そしてあの美しいダイヤを手に入れるのだ。
「やっぱり楽しそうね、雪子ちゃん」
「はい、毎日楽しいですよ」
顔を覗き込んできた明美に、雪子は瞳を黒い三日月にした。
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本連載は今回が最終回です。ご愛読ありがとうございました。
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