薄っぺらなブルーダイヤ

「腹を狙うのはありきたりだし、外したら今みたいにカウンターをもらいやすい。それに君みたいに小さい女の子が、リーチの差を無視して大の男に正面から挑むのもダメだよ。まずは目を潰すのがいい。そうすれば動きが鈍る」

これはペナルティだと、優一郎が雪子の左腕を軽く切りつけた。興奮に染まる真っ黒な瞳を前に、雪子はこのまま殺されるかもしれないと思った。怖くはなかったが、つまらないことになりそうだと、ほんの少し焦った。同時に、どうしたらこの状況を打破できるかと、わくわくしながら考えていた。

あの時、自分がどんな顔をしていたのか雪子は知らない。ただ優一郎が「おや、やっぱりそうなのかな」と、小さく呟いたのは覚えている。

「君は俺が怖くないの?」

「怖がってほしいの?」

 雪子は黒く大きな瞳で優一郎を見上げた。

「その傷、痛くないのかい」

「うん。痛いって思ったこと、今までないの」

「本当かい?」

優一郎は子供みたいに首を捻って、「俺も同じなんだ」と打ち明けた。

「試しに俺を切ってごらん」

そう言われ、雪子は遠慮なしに優一郎の腕にナイフを突き刺した。優一郎は嬉しそうな顔で「ねっ、一緒だろ」と笑った。雪子もつられて笑った。

「無痛症というんだ。痛みを感じない体質だ。おかげでブレーキがかからないから、常人以上の力が出せる。君もきっとそうだ」

「かもしれない」