「我々のような人間はね、普通の人間と脳の構造がちょっと違って、力の解放率が高いんだ」
「我々のような人間って?」
「人とは違う者だよ。でも、慢心しちゃいけない。じゃないと今日みたいに足を掬われる。与えられた力は存分に磨かなきゃいけないし、知識も養うべきだ。そうすればもっと、人生を楽しめる」
優一郎は「ようこそ、我々の世界へ」と、雪子に手を差し出した。雪子はその手を握った。冷たく滑らかな手だった。
後にも先にも、雪子が少しでもヒヤリとしたのはあの時だけだった。同類の優一郎だからこそ、自分にスリルを味わわせることができたのだろう。この日以来、雪子と優一郎は友人になった。
優一郎は人体の急所や効率のいい死体の片づけ方、鍵のこじ開け方や犯罪の隠し方など、さまざまな知識を惜しみなく雪子にくれた。時には体験を通して手取り足取り、教えてくれることもあった。雪子の呑み込みの早さを、優一郎は大いに歓迎した。
やがて、雪子に暴力や犯罪のスキルがそれなりに身につくと、同じ獲物をどちらが早く狩れるか勝負したり、いかに無知で無能な獲物を探して闇に陥れるかを競ったりなど、ゲームをするようになった。
お互い本性を偽らず、思ったことをなんでも言える。そんな安心感があったのだろう。優一郎との交流は、彼が殺された十二年前の夏まで続いた。
今も彼が生きていれば、私たちはどんなふうに過ごしていただろう。彼のおかげで前回の田所の処理も、初めてなのにまるで何度も繰り返してきたことのようにスムーズに終えられた。けれど、優一郎と同じ血を引いているはずの優真はまだ、雪子の喉元にすら届いていない。田所を殺してからもう一カ月が経とうとしているのに。
雪子は優真の疑いをかいくぐって罪を犯し、優真はその罪を突き止めようと力を尽くす。これはゲームだ。どうせ遊ぶならある程度、互いの力量が拮抗していなければおもしろくない。優真には少しハンデが必要そうだ。
次のダイヤの材料は、飛熊駅前交番の管轄で探そうか。ちょうど雪子の生活圏内でもあるし、生きている価値もないと思われるようなくだらない人間がたくさんいる。
血の珠のような夕日を見ているうちに、悪戯な気持ちが頭をもたげた。
【前回記事を読む】「さて、なにをして遊ぼうか。可愛いお嬢さん」後ろから口を塞がれ空き家に引っ張り込まれた。その手にはナイフが握られていた。
次回更新は2月12日(水)、22時の予定です。
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