知数が起き上がりベッドの上に胡坐をかいた。実知はベッドに椅子を寄せて座った。わずかに気持ちが和んでくるのを感じて、実知は深い呼吸をした。体の内側に張りついていた絶望のカケラが脱離し、落ちていく。

「今までの反省をしてから次を考えましょう。これは私の勉強不足もあったし、何も知らないからただ狼狽(ろうばい)し、地に足がつかないまま他人に縋るしかなかったから起きた当然の失敗だったと思うの。

いろいろな科のお医者様に診てもらって、それぞれ熱心に治療をしていただいたけれど、私の見る限り、少しも良くならなかった。どんどん悪化してきたのよ。お前も苦しかったし、私もそれを見ているのは苦しかった。

治療の効果が上がらないのは、何か大切なところで間違っているに違いないと思うようになって、何冊も本を探して読んでみたわ。小児科、児童精神科、心療内科、臨床心理学、カウンセリング専門家などの本を十冊以上は読みました。

読んでみて暗然とした気持ちにさせられたの。どの分野の学会にも診断と治療のガイドラインというものが作られていて、それに沿った治療が行われているのだけれど、結局どの本も一口で言えば治るのは難しいって書いてあった。無理はせず、諦めない、というのが基本的な態度だけれど、結論としては」

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次回更新は2月1日(土)、21時の予定です。

 

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