実知自身、体が毎日爽やかで疲れなくなり、便秘も治った。人から、「若返ってきれいになったね」と言われることも嬉しい。

体形もボテボテ感が取れ、引き締まって美しくなった。肌はカサカサしなくなり、しっとりと色も艶も良くなり、湿疹も消え、シミも薄らいできた。自分からは言えないが、確かに若く、美しくなった。

それに何と言っても、知数には申し訳ないことをした、努力や勉強を怠ったことへの天罰が下ったのだという自責の念を強く持たざるを得ない。

草介から、「甘くて軟らかい物ばかり食べさせませんでしたか」と言われた言葉が、今も心に痛い。

確かに、ろくに考えもせず、軟らかい物は良い物だと考え、食事にもおやつにもそういう物ばかり与えた。それが常態化すると、子供は硬い物を食べたがらなくなる。

「化学物質は、体も心も人間でないような人を作る原因になっていると疑っています」この言葉も心にグサリと突き刺さっている。草介は川瀬一家の全てを見透かしていたのだと思う。恐いほどに本当のことをズバリと言われた気がするのだ。

或る日突然、知数の体と心がグンニャリと溶けたように正体を失ってしまった。起きられなくなり、言葉も失い、父母に険しく突っかかり、学校にも行かなくなってしまった。

「しかも……」と実知は気付く。溶けたように正体を失ってしまったのは知数だけではない。全く同じようになって未知夫も自殺してしまった。似た状態になっている子供は周囲に珍しくもなくなってしまっているのだ。

新聞では不登校の小中学生が、全国で二十四万人以上に増加していると報じている。草介が言っていることは本当のことだ、と実感する。

十二月になってすぐに、中井から電話があり、不登校やいじめの解消をはかる協議会に、あすなろからも加わることになっているが中井と実知の二人で入りたいのでお願いできないか、ということであった。

協議会に加わる予定者の名前を挙げ、「三鶴先生にもお願いしていて、大丈夫と思う」とのことだ。実知はそのような場所には慣れないし、自分には発言するような内容がないからと固辞したが、「知数君も元気になったと聞いています。良くなった経験者のお話も是非必要だから」と粘る。

それに、「三鶴先生の所で治療を受けて良くなった子供が何人もいると聞いていますし、三鶴先生のお話と川瀬さんのお話も欠かせないのです。お願いします」と押し切られた。「三鶴先生」と言われると断るのは難しいのだ。