来訪した市教委の花岡誠の熱心な説得に結局押し切られ、協議会への参加を承諾してしまったあと、草介の所にも協議会開催の通知は間もなく来た。

教育委員会の学校教育課、不登校に悩む子供たちの教室「高崎市教育支援センター」、森山未知夫が在籍していた中学校の学校関係者、校医、学校歯科医、それに大学の小児科教授などはいかにもそれらしいメンバーだが、校医以外の佐倉心療内科の佐倉優やみつる歯科の三鶴草介は少し外れた顔ぶれだ。

それに不登校生支援グループの中井咲子会長や役員の川瀬実知などはただの民間人だ。加えて自殺した森山未知夫の父親の森山良助まで名を連ねている。中井が活発に動いて持ち上がった話なので、民間まで広げた構成になったのだろうか。

協議会の名称は、「不登校解消を目指す高崎市連絡協議会」となっていた。行政主導の会はいつもこのように一般的で抽象的な名称を採る。

そして協議の成果としては、

・相談窓口と担当者を増やす

・教育支援センターの内容を充実させる

などというところに落ち着くはずだ。

開催通知を見て草介はそう思った。だから参加する意欲が湧かない。根本的な解決に関心が向いているのなら、根本原因の検討や研究に関心が向くはずだが、それが常に欠落しているのがこの世の文化になっている。

それでも学校教育課の係長で担当者の花岡は熱心で、G大学の小児科教授が書いた学会記事や一般雑誌記事、全国と高崎市の小中学校の不登校児童の実態など、資料を持参してあの日面会を求めてきたのだった。

「三鶴先生の所で治っている子供が何人もいて、実際に関心を持っている方が多いのです。是非根本的な原因や対策についてお考えを示してほしいと、私も個人的に望んでおります。私の周囲や関係者にも、登校できない子供や、送迎がないと登校できない子供が増えているのが現実です」と丁寧に要請し、何度も頭を下げた。

「でも、私の見方や治療法にはまだエビデンスも学会によるオーソライズもないのです。たまたま治った人がいる、と言えばそれまでです。診断と治療のガイドラインも各関連学会で整備されていて、それは私の考えとは違います。

原因についても私が疑っている食品や環境の化学物質汚染などを言えば、利害関係から反発する人もいるし、浮き上がってしまうのが落ちで……。あまり言えないのです」

担当者は何度も頷き、微妙な勢力関係にも理解を示している風だった。

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本連載は今回で最終回です。ご愛読ありがとうございました。

 

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