そう言って実知は次の四つを挙げた。

持って生まれた特性に左右される。

完治は目指しにくい。

元の学校に復帰は難しいのでフリースクール(通信校)などが良い。

薬物療法はあくまで対症療法で、根本的治癒は望めない。

そしてこう続けた。

「要するに今の治療では治らないと書いてあるのよ。その治療をずっと受けてきたのだから治るはずはなかったのよ。私の勉強不足だったの。何でもちゃんと勉強しなければダメなのよ。本当にごめんなさいね。

その中で意外な本に出会ったの。歯科の先生が書いた本で、頭痛、首コリ、肩コリ、腰痛、ふらつき、無気力、それが咬み合わせのバランスを補正すれば劇的に治るというのよ。

もっと意外だったのはウツや不登校が劇的に治った例が書いてあったのよ。でも暫く信じられないままでいた。歯でウツや不登校が治るなんて繋がらないものね」

知数はうな垂れて黙って聞いている。姿勢を保つのが苦しいらしく、著しく猫背に丸めた上体を時々捻っている。

「知数も言っていたでしょう。歯なんて関係ないって。誰だってそう思うよね。そう考えるのが当然と思うよ。でも先入観は絶対にダメね。それをつくづく感じさせられたのよ。あすなろの高山創君って知っているでしょう」

知数の同じ中学校で同学年なのでよく知っている。知数は怠そうに顔を上げ、母親を見た。眠そうな表情のままだ。

「高山君はもう一年七か月も登校できないでいたんだけど、それがグングン良くなって皆が驚いているのよ。

良くなったきっかけは高山君のお母さんが母親同士で親しくしている須田春菜さんていう小学六年生の女の子が、みつる歯科で咬み合わせの治療を受けたことだったの。

その治療を受けたらあっけなく良くなって学校に行けるようになったんだって。春菜さんは発症して一週間くらいで、お母さんがみつる歯科の奥さんを知っていて相談して早かったから簡単に治ったらしいのよ。

春菜さんは他の歯科で歯にかぶせ物をしたら次の日から人が変わってしまって、険しい表情でお母さんやお父さんに当たり散らして、朝起きてこなくなったんだって。

春菜さんのお父さんもお母さんも一人娘が狂ってしまったと思って、人生最大の危機だって悩んだそうよ。それで知り合いだった三鶴先生の奥さんに相談したらしいのよ。

一回行って、咬み合わせの調整をしたら翌日から学校に行けるようになって、ウソみたいって言っていた。その話が高山君のお母さんに伝わって、お母さんは無理矢理高山君を引っ張っていったんだって。

〝一年七か月経っているから、治るのも時間がかかるのが普通ですが、それでよかったら〟と三鶴先生はつれなく言ったらしいのよ」そこまで言うと実知は草介の口調を思い出すように言葉を切り、さらに続けた。