面倒臭えなと美結は思った。ロボットになりたいと思った。単細胞生物でもいい。
刺激と反応を繰り返すだけになりたいと思った。
《今どこにいるの?》
《みゆちゃんの誕生日には帰っておいでね》
《何か、つらいことでもあった? 話してごらんね。私にできること、なんでもしてあげるからね》
喜美子は「未熟な大人」だった。年齢は「大人」のくせに、相手の苦しみを完全に理解できると思い込んでいる。あなたの苦しみは、手に取るようにわかるわ、と言いたげな偽善者に心配などされたくないだろう。濁ったプラスチックのような言葉はいらない。ときに、ただ強く抱きしめられるほうが必要だ。
少女は「大人」の社会と無関係な人生を歩みたかった。でももう片足を突っ込んでいる。突っ込んでしまったからには、「強さ」が正義だった。画面の向こう側にいる奴らの感情をコントロールできる「強さ」を発掘しようと必死になる。虚勢を張らなければ食い殺される。
猛獣たちが「新宿」の街を練り歩いている。どうしても大人になるために「新宿」に戻ってしまう。戻らなくてはいけないという呪縛に囚われている。強く生きていかなければならない。死ぬなんて考えられない。大人たちの世界で自殺に追い込まれたら未練だらけだ、悔しすぎる、と美結は思った、かのように思えた。
【前回記事を読む】欲しいものない? 行きたいとこは? 誕生日いつ? 何が欲しい?…なんでもしてあげるから、どうか私を嫌わないで。ずっとそばにいて
次回更新は2月2日(日)、18時の予定です。
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