「まぁこれ以上はプライベートなお話ですし、私どもにも守秘義務がありますから。それとも、事件性があるんですか?」
「まさか。ただ、ご家族の方があまりに心配なさるので」
「あらまぁ、警察も大変ね」
伸親の苦笑をどう取ったのか、明美が同情の色を浮かべる。
「でも、警察が求めるような情報はうちにはありませんよ」
「そうですよね、では我々はそろそろ」
「田所さんのことでトラブルがあったのなら、ぜひお話を」
立ち上がろうとした伸親を優真が遮る。どうしても田所の不在を事件に結びつけたいらしい。面倒ごとの気配を感じ取ったのか、明美の顔が俄かに固くなる。
「あら、特にお話しすることはないですよ。そうだ、市で放送を流しますね」
「放送ですか」
優真は優しげな垂れ気味の眉を、軽く顰めた。
「認知症の老人がいなくなった時に流れるの、聞いたことありません? 市でも協力できることはしますので。雪子ちゃん、放送お願いね」
「放送は無意味かと」
立ち上がろうとした明美を優真が遮る。
「申し上げにくいことですが、田所さんがいなくなってもう四日以上です」
淡々とした口調だった。優真の隣で伸親がひゅっと息を呑む。
「山に行く習慣があったそうで、遭難してそのままという可能性が高いと考えています。せめていなくなる前にどこの山に行ったという情報があれば、捜索隊を出せるのですが」
「お力になれず申し訳ございませんね。早く見つかるといいけど」
「はい。いずれにせよ 、早く見つけてあげないと」
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次回更新は2月1日(土)、22時の予定です。
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