深海のダイヤ

痛ましげな表情を作った明美を、優真は穿つような黒い目でじっと見ていた。

帰り際にぺこりと頭を下げた雪子に、優真が丁寧な礼を返す。三秒数えて顔を上げたら、またしても目が合った。真っ黒な瞳はまるで黒曜石みたいだ。

「あの」

思わず覗き込んでいると、優真がためらいがちに声をかけてくる。

「なんですか?」

「いえ、以前どこかで僕と会ったことがありますか」

微妙に変な質問だ。自分自身のことを尋ねているにもかかわらず、この人を見かけませんでしたか、というニュアンスに近い。

「会ってないと思いますけど、どうしてですか?」

「いえ、僕を知っているような顔だったので」

雪子は改めて優真を観察した。やっぱり変な男だ。あるいは、さきほどの一瞬の動揺を見抜くぐらい鋭いのか。内心警戒しつつ、いつもの微笑を浮かべて首を傾げると、「こら優真、いきなり旦那の目前で人の嫁さんを口説くな」と、伸親が割り込んできた。

「すいません、そういうつもりじゃないんですが」

優真が生真面目な顔で謝る。

なんだか面倒そうな新人が来たなと雪子は思った。当てずっぽうか、確信があるかはまだ分からないが、警戒しておく必要がありそうだ。

その日、雪子は田所の家を訪ねていた。