「人の家に勝手に上がって、なんなんだ!」
黄ばんだシャツとよれよれのトランクス姿で近づいてくる田所の顔面に、雪子は無言で右ストレートをお見舞いした。
「ぎゃっ」
ごりっと鼻が潰れ、鼻血を吹きながら田所がひっくり返る。
「なんらんだっ! ごっ、強盗かっ」
尻もちをついたまま、田所はこちらを見上げた。怒鳴ってはいるが、市役所で暴れている時のような元気はない。鼻血を垂らした顔は青褪めている。
「かっ、金なんてないぞっ」
「そうですか」
叫ぶ田所の腹を雪子は軽く蹴った。田所が激しくせき込みながら、なにやら罵倒の言葉を吐いた。だが、あまりに激しくせき込んでいるので、雪子は上手く聞き取れなかった。
「なんて言ったんですか?」
田所の口元に耳を寄せて尋ねる。
「世の中、いちばん儲けてるのは政治家だっ。強盗ならっ、政治家でも、殺してこいっ」
「強盗じゃないですよ。さて、だぁ~れだ?」
雪子は田所の足首めがけて鉈を振り下ろした。
鈍い手応えの後、血飛沫がバタバタと合羽を叩く。
「ぎゃぁぁぁっ」
「痛いですか? これから生きたままあなたを解体します」
【前回記事を読む】行方不明になった老人は、市役所に「ご高説」を垂れる「常連さん」「有名人」だったようだ。いずれにせよ …
次回更新は2月2日(日)、22時の予定です。
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