「それより、田所さんはいつから行方不明なんですか」

優真の問いをきれいに無視して、明美が尋ね返す。

「詳しくは分かりません。他市にお住まいのご家族が言うには、数日間、一日に何度か電話をかけたけど繋がらないそうで。我々も何度かお宅にもお邪魔しましたが、毎回ご不在でした」

「へぇ、警察も大変ですね。雪子ちゃん、田所さんが来たのは何時だった?」

「正午過ぎです」

「よく覚えてるね、雪ちゃん」

伸親が仕事の顔を忘れて、きょとんとする。

「毎回そのくらいの時間にいらっしゃるので」

田所はいつも昼休み直前にやってくる。昼休みも休ませてなるかという執念を感じると、三島がしばしば嘆いていた。

「市役所にはなにをしに来るんです?」

優真が怪訝そうに尋ねる。

「行政に対するご意見を言いに」

「そうご高説をね」

せっかくオブラートに包んだのに、明美が棘のある口調で余計な一言を追加する。

「ご高説ですか?」

案の定、優真が食いついた。

「やれ市役所は人件費を使いすぎてるだの、公民館のサービスを増やせだの。市役所までのタクシー代を出せとか、この前は自宅のハチの巣をなんとかしろ、なんて言ってきたこともあったわね」

「無茶苦茶ですね」

「長い時には三時間以上よ、信じられる? 一人暮らしで止めてくれる家族がいないからきっと歯止めが利かないのね」

よほど腹に据えかねていたのか、明美はマシンガンのように捲し立てた。

自分は対応していないくせにと、雪子は内心呆れた。

「窓口で暴れたりはしなかったですか」

「まぁ、興奮して大声を出すくらいだったわ。ねぇ」

「はい、トラブルといったほどのことはありませんでした」

わざとらしく視線を送ってくる明美の脛を蹴飛ばしたい衝動に駆られながら、雪子は神妙に頷いた。