深海のダイヤ

「そういえば最近、犬のフン落ちてないね」

出がけに伸親が呟いた。ゴミ一つない玄関を、奇跡でも見るみたいな目で見ている。精悍な顔立ちが、こうしているとちょっと可愛い。それこそ犬みたいに。

「散歩のルートが変わったのかもしれないね」

雪子は笑って答えた。

その日、伸親が職場にやってきた。

「飛熊(ひぐま)警察署地域課、飛熊駅前交番の真田です。いつもお世話になっています」

カウンターの前で鯱(しゃちほこ)ばって挨拶する伸親に、少しだけ職場がざわつく。

「あれ、雪子ちゃんの旦那さんじゃない。出てあげなさいよ」

明美が冷やかし笑いを浮かべながら言うので、雪子は仕方なくカウンターに出た。

「どうしたの、伸親さん」

「実は田所修さんっていう人が行方不明で。捜索願が出てるんだ」

   

【前回記事を読む】「偉いわねぇ、本当にいい子ねぇ」傷つけられても笑っている人間が“いい子”だなんて、ものすごい価値基準だ。

次回更新は1月31日(金)、22時の予定です。

   

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