「強盗じゃないですよ。さて、だぁ~れだ?」
言いながら男が振り下ろした鉈が、田所の足首に命中した。
「ぎゃぁぁぁっ」
「痛いですか? これから生きたままあなたを解体します」
「た……助けてくれ……。殺さないで……っ」
男は息も絶え絶えに訴えた田所を縛り上げ、猿ぐつわを噛ませて薬剤を注射した。
「あなたはご自分の命にいくら出せますか」
男が首を傾げる。田所は自由にならぬ口で、必死に男を説得しようとした。だが男は、首を振るばかりだった。しばらくして男は言った。
「私が殺したいのはあなたですよ、田所さん。政治家は関係ありません」
男がおもむろに仮面を外す。その正体に田所は驚愕した。
なんでもするから助けて欲しい。
田所は心の底から訴えた。だが願いは聞き入れられず、拷問を愉しむかのように、少しずつ体を刻まれた。
こんなことをする人間が市井に混じってなに食わぬ顔で暮らしていたなんて、田所には信じられなかった。あまりの恐ろしさと痛みで、だんだん意識が遠のいていく。
「た……す……けて」
死にたくない。田所は自由にならない体を必死で捩(よじ)った。縛り上げられた関節がぎしぎしと悲鳴を上げたが、切られる痛みと死の恐怖に比べたら、どうということはなかった。
無理やり目を開かされ、針で眼球を潰されても、田所はただ生きたいと願った。激痛にのたうちまわりながら、ひたすら助けがくることを願う。
だが、誰も来なかった。錆びた鉈の刃で身を切られ、骨を割られ、執拗に嬲(なぶ)られながら、やがて田所は息絶えた。