葬儀も墓も生きている人間の自己満足だ。死んでしまったらなんの意味もない。だってもう死んでいるのだ。自分の葬式がどんなことになろうと知る術はない。それなのになぜ、生きているうちから自分の葬式のことなど気にしなければいけないのだろう。
無言でチャンネルを替えようとした時、見事なブロンドの女性が画面に現れた。スイスの会社の人で、ダイヤモンド葬という一風変わった葬送の紹介を始める。独自の抽出技術を用いて遺骨に含まれる炭素を取り出し、人工的に高温高圧をかけることでダイヤモンドを生成して、遺族に届けるというものだった。
死んでも永遠の輝きを持つダイヤモンドとして生まれ変わることで、ずっと大切な人のそばにいられる。
そんなロマンティックなのだかホラーなのだか分からないキャッチコピーとともに紹介されたダイヤに、雪子は目を奪われた。高価な宝石だからではない。ブルーがかった石の中に、どこまでも硬く突き離すような天然のダイヤにはない、揺らぎが見えたのだ。まるで魂が宝石に化けたみたいだ。その儚げで不安定な美しさが、雪子の琴線に触れた。
「あれ、雪ちゃん興味ある?」
「ええ。ちょっとロマンティックだと思って」
「じゃあ、俺が死んだらダイヤにしてよ」
「じゃあ、私も」
呑気に笑う伸親ににっこり笑い返して、雪子はまた画面を食い入るように見つめた。
人の体を使ってこんなにも美しい宝石が生み出せるなんて、信じられない。
青い輝きに溜息が零(こぼ)れる。もっと近くで見たい。あのひんやりとした輝きに触れてみたい。
ダイヤの紹介が終わるとすぐに、雪子はスマートフォンで検索した。頭の中はダイヤの輝きでいっぱいだった。
「ねぇ、雪ちゃん、そろそろ子供が欲しいね」
そう言って伸親がベッドで迫ってきても上の空になるくらい、雪子はダイヤに夢中になった。一晩寝ても収まることはなく、夢にまで見るくらいだった。
蒼く不安定な輝きがちらついて、あらゆる思考を塗り潰していく。
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次回更新は1月28日(火)、22時の予定です。
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