俳句・短歌 歴史・地理 歌集 日本列島 2020.08.20 歌集「秋津島逍遥」より三首 歌集 秋津島逍遥 【第8回】 松下 正樹 “忘れえぬ旅をまたひとつ三十一文字に封印す” ――日本の面白さに旅装を解く暇もない 最果ての無人駅から、南の島の潮の香りまで、まだ見ぬ土地に想いは募る。 尽きせぬ思いが豊かな旅情を誘う、味わい深き歌の数々を連載にてお届けします。 この記事の連載一覧 最初 前回の記事へ 次回の記事へ 最新 天づたふ日は没りゆかむ流氷の ひかりを失せて海はかくれる 流氷を避けて港にもやふ船 舳を並べ春の待たるる 海峡をへだてて迫る国後の 高嶺が被く雪かがやけり
小説 『恋愛配達』 【第15回】 氷満 圭一郎 配達票にサインすると、彼女は思案するように僕の顔を見つめ「じゃあ寄ってく?」と… 「本業は酒屋で、宅配便はバイトです。ところでさ」ぼくはたまらず差し挟まずにはいられない。「さっきからなんなの、どっち、どっちって?」「だってあなた、ドッチ君だもん」「何、ドッチ君て?」すると瞳子さんは、ぼくの胸に付いている名札を指差した。これは配達者が何者であるのか知らせるために、運送会社から貸与されているものだ。ぼくの名前は以前病室で宴会を開いた時に教えていたはずだが、漢字までは教えていない。…
小説 『おーい、村長さん』 【第9回】 浅野 トシユキ 自分の知らない兄の姿。兄は何を感じて村長の話を受けたのだろう…。 兄は村に住み始めると、地元の人たちと親しく交流をするようになる。林業の人、農家の人、キャンプ場の人やバスの運転手さんとも友達になった。村祭りや花火大会にも進んで参加した。とにかく村の暮らしを楽しみ、村の人たちと仲よくなって皆さんから信頼されるようになっていた。前回の村長選挙のとき、候補者がいないという話になった。以前の村長は病気で亡くなり適任の候補が全くいないという状況だった。村にとっては一大事…