靄のかかった気分のまま目を逸らした先に、小さく梱包されたショーツがあった。もうすぐ少女は風呂から出てしまうだろう。清潔なものを身につけてもらいたいものだ。

しかしふと手を止める。ブラはいらないか? つーか、下着、買っといたよ、と言う自分は、プライベートにズカズカ入る変質者で気味が悪いのでは? 喜美子は自嘲し、ああもう! と苛立ちを左手に込め、とりあえずパッケージを千切るようにフックから引っこ抜いてそのままレジへと向かった。

会計を済まし、大急ぎで来た道を戻る。濡れた髪をバスタオルで撫で付ける少女が、優雅に読書する喜美子の姿を認め、安堵してもらわないと困る。散歩中の柴犬には目もくれず、エントランスをくぐり、エレベータに身を進め、そして、十一階まで昇ると息が切れていた。扉を開け靴を乱雑に脱ぎ捨てた。リビングに通ずる引き戸に嵌め込まれた擦りガラスに影が揺らめいた。

「ご、ごめん、ちょっとコンビニに……って」

少女は喜美子の赤い電動歯ブラシを咥(くわ)えていた。

「あれ? 使っちゃダメだった?」

「いや、いいんだけど……ほら、着替えとか、ないでしょ」

「いちおう予備は持ってる」

「ああ、そう」

「洗濯機に入れちゃったけど、大丈夫?」

「え、ああ、ぜんぜん。今度、いろいろ荷物とか持ってきていいから」

「うん! ありがと。お洋服とかも持ってこようかな」