小さい手でフォークとナイフをふんわりと持って器用に肉を切り分ける。絨毯の上で脚を崩しぺたりと座り、ローテーブルの天板の外に肉がはみ出さないように注意を払いつつ、顔をぐっと前に出し口に押し込んだ。
二の腕の引き締まった脂肪の緩やかなカーブが〈少女〉を証明する。襟元に結ぶりぼんが真っ直ぐ下に垂れるのも、美しい。寸胴な体型が、大人の世界の汚れを跳ねのける。喜美子が両手の指で円を描いたら、それをくぐり抜けてしまうくらいコンパクトな頭を覆う髪は、無抵抗にさらりと伸びており、つむじを作らないストレートに輪っかがのっている。
綺麗に平らげ、満足げな表情を浮かべる少女を見て愛おしさを感じ、喜美子はうろたえた。心は縦横無尽に浮遊して、上から少女を眺め、母性、庇護欲を感覚させたり、横から少女を見据え、修学旅行のあの永遠に夜が止まるかのような懐かしさを感覚させたりした。年齢は気体となって消えた。
間もなく十一時になると海外アンティークの壁掛け時計が教え、二人は夜を快く迎え入れた。
「もうこんな時間だ〜帰りたくない〜」
「―泊まってく?」
「いいの? 迷惑じゃないなら」
「いいんだよ、いつでもゆっくりして。ほら、お風呂ももうすぐ沸く時間だから入りな」
「うん! どんな感じ? 見てみたい!」
「こっち、おいで」
リビングを出てすぐのドアをスライドさせると現れるガラス張りのバスルームに少女は驚嘆、興奮した。「やばい! なんかエロい!」
「そんな言葉、使わないの」
「だってえ、こんなのドラマのあーゆーシーンでしか見ないよ!」
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次回更新は1月22日(水)、18時の予定です。
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