好みを瞬時に言える素直さ。洋食→肉料理、とカテゴリーを辿っていく。画面は、茶色が七割、残り三割は健康的な緑系統の色が占めている。
「えーどれにしよう!」
「遠慮しなくていいよ」
少女の表情には何ら偽りがなく、どの料理にも魅了されているようだった。また腹が鳴る。喜美子の体温が心地よくわずかに上がる。
「じゃ、あれ、サーロインステーキ!」
「これね、わかった」
底なしの若さ。喜美子は、極上和牛のステーキ二つをカートに入れ、デザートの特製パフェを追加し注文した。待っている間はカウチソファで二人並んで「新宿」らしい話をした。友達とファッションビルをぶらぶらして、カフェで甘いフラペチーノを注文、SNSにアップして、ファミレスでミラノ風ドリアとドリンクバーで2時間 ―インターホンが鳴る。
カメラ越しの配達員が一生住むことはない異世界に迷い込み明らかに顔を火照(ほて)らせている様子に、喜美子は得意げだった。玄関の扉を開けて階下から配達員が上がってくるのを待つ。数十秒後には白い袋を提げ、こちらを見やると小走りにやってきて、商品名を呪文らしく唱えながら手渡すと、そそくさと去っていった。
両手に肉の重さを感じる。この商品もそうそう注文されるものではない。店員も「お」と感じたはずだ。袋からプラスチックのケースたちを解放すると、香ばしい匂いが鼻をくすぐった。喜美子はキッチンからいつかの来客用にと買った洒落た皿を手に取った。盛り付けでさらに料理は美味しくなる。
「届いたよ、どこで食べる? ここでも、あっちのテーブルでも」
「じゃ、ここ」
「オッケー。あっちで手、洗ってきて」
少女は洗面所に向かう。会社のクリスマスパーティで貰ったビーグル犬のスリッパが数年越しに命を与えられ、耳をぱたぱたさせる。少女の白く、丸い踵からは、アキレス腱が伸びる。さらに脚、膝裏、腿まで一直線にすっと美しい造形が、ホットパンツ手前の臀部までつながっている。寒いだろ、まったく、おバカだなあ。
すぐに少女は戻ってきてリプロダクトではないパーソナルチェアに陣取った。シーリングライトを反射する少女の太腿は、まるで白いエナメルのようだった。
「いっただきまーす」