「超かわいい!」
「似合ってるよ」
「いいなあ……これいくらくらいする?」
「うーん、四十万くらい?」
「ひえ〜」少女はわざとらしく驚嘆する。
「やっぱお金持ちじゃーん!」
「まあ、仕事しかしてないからね」
オーバーサイズのコートに包まれる少女の姿に、喜美子は萌えた。
ファッションショーが始まった。ドイツ製のスタンドミラーを前にして立ち、向こうの自分を見つめながら体を左右に捻ると、裾がひらりと揺れた。服の黒色と対照的な真っ白な脚はレジン製のドールのようにきめ細やかで、ライトを反射させるほど瑞々しかった。ロングコートの丈はフローリングにくっついて、布の重みでくしゃっと潰れた。
その様子も少女の華奢さを強調し、喜美子の「母性」をくすぐるようだった。普段はさして使わないスマートフォンのトリプルカメラが真価を発揮する。
ショーの後は、しばらくテレビ画面に映し出される適当な番組を流しながら、他愛のない話をした。炭酸のように爽快な声で、自分の趣味について熱く語る。フルーツが好き、とくに苺とリンゴが好き、ミルクティが好き、お菓子だとチョコレートが好き、カカオが八十%以上のものが好き、花だとコスモスが好き、一面に咲く様が好き、あのドラマに出ていた俳優が好き、アイドルが好き。
「アイドル?」「うん」「それって……男性グループ?」「男は、まあ、って感じ。あたしは、神楽坂48のれなちが好きい」
喜美子が首を傾(かし)げると、少女はサッとスマホを取り出して画像を見せてくれる。ああ、この子ならバラエティ番組で見たことがある。グループの冠番組でよくある司会の二人の男性が少女たちにマウントをとっていじる番組構成は好みじゃないけど。可愛さが、男を魅了するためにあるとでも? 少女の可愛さに、勝手な意義を付着させるな、と喜美子は嫌悪する。
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次回更新は1月20日(月)、18時の予定です。
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