バースデーソングは歌えない。
2 邂逅 〜喜美子〜
タイミング良くバーテンダーの白石が、ふらあとこちらにやってきて「おかわりは」と訊いた。
「あーどうしようかな」チラチラと喜美子の顔を窺う真意を察し、「奢るからさ、なんでも頼んでいいよ」と言ってやる。
「おねーさんありがとう!」
自分が “お姉さん”と呼ばれたのがどうも恥ずかしかった。少女からすれば、三十近くも離れた喜美子は“お母さん”の年齢でもおかしくはない。想像以上に、若さに執着している自覚はある。それは、若さ自体に価値を見出しているというよりかは、老いに対しての恐怖の裏返しだった。
何一つとして年を取る利点は浮かばない。目をつむり、「心」に、おいくつですかと問いかければ、成人手前で止まっている気がしてならない。それが、実社会に対する反抗、実年齢への反発なのかもしれなかった。
喜美子は、凝り固まった疲労感が、手足から店内フロアに少しずつ流れていくのを感じた。自分の分も注文する。度数高めのカクテルは、ますます喜美子を調子づかせた。心地のよい異空間だった。隣の少女との間にある年齢の壁は透明になりつつあったし、背後で盛り上がる数組の客たちとは、敵対する気配がなかった。
久々に現れた新しい関係性に、人生の変容を期待し、これをさらに深化したいと願った。そう簡単には他者の正体に到達できないとは長年の経験からわかっていたが、興味は増す一方だった。彼女を取り巻く環境について尋ね、ゆっくり慎重に距離を詰めていきたい。