「学校は行ってるの?」
「行ってない」当たり前に答える。
「みんな心配してるんじゃない?」
「みんな?」
「両親とか友達とか」
「別にあたしがいなくても関係ないよ」ピンク色の液体を一口飲み、口を尖らせわざとらしく溜息をついた。「逆に、トモダチいる?」
問いが向けられると、途端にこの物言いには失礼な含みがあると感じた。が、そもそも「トモダチ」とはどんな存在なのか、喜美子自身、よくわかっていなかった。果たして「トモダチ」の有無は、自己ステータスに還元できるものなのだろうか。仮に「自分の時間を使うのに苦を感じない間柄」を意味するのならば「いないかな」。
「じゃ、あたしがなってあげるね、トモダチ」
「ええ? あっはは、ありがと」
その台詞は、軽く空虚な器だけの言葉だったとしても、喜美子を虜にするには十分だった。
アルコールが体内をゆっくりと循環し、いよいよ喜美子の瞼を押し下げ、少女は小動物を連想させるあくびをした。きっと少女の心臓の大きさは私の半分以下だ。喜美子はそう思った。
「少し仮眠なさっては。よろしければ、あちら、ご利用ください」
白石が、ヴィンテージのソファを案内すると、少女は行儀良く靴を脱ぎ踵を揃え、後は心が求めるままに体を程良い反発のクッションに預け、それから手足を折りたたみ、しっとりと瞼を閉じる。その楚々たる姿は、喜美子の複合的かつ高次の感情を揺り動かした。
自分の長く丈夫な手足は、曲げてもソファからはみ出てしまう。体の構造そのものが遺伝子レベルで違い、特に彼女の前ではそれが際立った。喜美子は、自分の図体を重力で感じ、おお神よ、ふざけるな、と思った。