少女の顔の小さな面積には、小粒のパーツが奇跡的な配置で並んでいる。髪、さらさら。目、キラキラ。大きな目、膨らんだ涙袋。鼻、丸くて小さな小鼻。口、キュッとなった上唇。頬、まん丸で薄い桃色の天然チーク。少女と大女。二人を比べているのは、この場所では他でもなく自分だけだった。

バーテンダーはカウンター客に付きっきりだったし、遠くの壁沿いの席に一人客がいたが、うたた寝していた。二つの体の差異を掴んで逆立てる価値観は、どこから招来する? 小さい、幼い、可愛い。人が惹かれる理由を「本能」で片付けてしまうのは荒過ぎる。その裏側には、嫉妬と累計できてしまうような、どんよりとした曇りの感情もある気がした。

自分が「少女」だった頃でも、目の前の〈少女〉ではなかった。羨ましい。喜美子を含め、多くのものが、彼女の味方につくのだろう。一言で言えば、眼福。存在を愛でるだけで、気持ちが上がっていく。彼女には「少女らしさ」が宿っていた。少年らしさとも違う、少女らしさが。

夢が弾けると、時計の長針は三周していた。なのに眠りは浅く、体は重い。眠っても取れない疲れが体に染み付いていてどうにもならない。でも、こんな悩みだって、もうだいぶ前に諦めがついていた。

節々の凝りを指圧し、ふくらはぎを揉みながら、腕の先に付いた「手」という器官が、どうも歪(いびつ)に見えてきて、限界まで外側に力を込めて広げると、少女の顔を覆い隠せるほどの大きさに広がっている。

喜美子は二本の太い脚に腰をのっけ、足に重心を移して立ち上がる。少女の元へそっと近づき、起床後の不安を感じさせない穏やかな表情に、自分がいかにくすんだ世界を泳いでいるのかを知る。

少女は、とろんとした目で喜美子を見上げ、もにゃもにゃと何かを言っている。

【ああ、この子を連れて帰りたい】と喜美子は、これまでずっと胸の内に流れていた欲念を言葉に結晶化した。

    

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次回更新は1月19日(日)、18時の予定です。

    

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