骸骨は疑い深くなっていた。今まで誰も本気で相手にしてくれなかったから、すっかり心がいじけてしまったのだろう。
「イヤ、ソレも違う」
骸骨は自身で気づかず辺りをうろうろしていた。あの少女は違う。そう信じた。いやそう信じたかったというべきなのかも知れない。骸骨は煩悶していた。何故悩むのかよく解っていなかった。
人を信じるということは、疑うよりもずっと難しいことなのだということをまだ知らなかったのである。
昼を少し回った頃、背後でコツコツと杖を突く音がした。骸骨は一瞬身を硬くした。現れたのはやはりあの少女だった。
「ごめんなさい、待ったぁ?」
木漏れ日を浴びてにこやかに笑うその姿を見ていると、肩から力が抜け、同時に胸がふわりと持ち上がるような気がした。
「イヤ、ソノ、コンニチハ」
「あら、どこにいるの? 声がちょっと遠い気がする」
「ハア、崖ノ縁デスヨ。ココハ風ガ気持チイイ」
少女は目を閉じて鼻先を岬の方へ向ける仕草をした。
「ねえ、わたしもそこに行きたいなぁ、連れてってよ」
「エッ、ココニ? ドウヤッテ‥‥」
骸骨はきょとんとした。二人の間には深い藪があり、杖を突いて抜けるのは無理に思えた。骸骨は藪と少女をきょときょと見較べた。
「気が利かないわねえ、肩を抱いてエスコートしてくれればいいじゃない」
少女はさも呆れたといった様子をした。
「エッ、肩ヲ‥‥抱イテ?」
一方骸骨の方はぎょっとした。人気のない所で、しかもそんな行動を採るのはちょっと憚られるような気がした。それで身体を硬直させて歯をカチカチ震わせ始めた。
「何ヘンな想像してるのよ、いいから早く」
少女の声音は断定的で、骸骨は身体をカチャカチャ言わせながら近づいた。緊張で身体が固くなるということがあるが、骸骨の場合関節が固くなるものらしい。
【前回の記事を読む】初めて触れた人の手だった。あの時、白い杖を渡す時触れた温かくてやさしい手、その小振りな感触は確かなものだった。
次回更新は1月24日(金)、11時の予定です。
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