『ああ、無作為(むさくい)にゴンドラを落としていく。他の乗客を生かすも殺すも君次第というわけだ』
「そんなことをして何の意味がある?」
『さあ、始めるんだ』
その言葉を最後に通信は切れた。
おい、そう仲山は叫んだが、答えは返らない。諦めて仲山は受話器を置いた。
なぜ俺なんだ? なぜ俺があの夫婦に代わって生き残った? 犯人の目的はなんだ?
そう頭で自問を繰り返す。
ただ、今の会話をもって仲山は、犯人像を少しだけ作り上げていた。ポイントは、滝口美香を「あの子」と呼んだことだった。合成音声だろうが、口調を変えていようが、大学生を「あの子」と呼ぶのは年上の感性となる。おそらく成人済みの社会人、というところまで、仲山は把握した。
「……通報するしかないか」
もたもたしていてゴンドラを落とされてはたまらないとばかりに、仲山は一度置いた緊急電話に手を伸ばし慎重に受話器を取った。『小人』に乗っ取られてはいるが、これが唯一の外部との連絡手段である。警察への通報はここからするしかないのだった。何度か呼び出し音が鳴り、電話口に出たのは男性だった。
『は、はい、もしもし。乗客の方ですか?』
「ああ、そうだ。今ゴンドラに乗っている。あんたは係の姉さんじゃないな。ということは警察の人間か?」
相手が慌てているので、仲山はこと更落ち着いた口調で話を始めた。
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