出兵のときに持っていったのであろう、日の丸にたくさんの名前?が書かれた布を見つけたとき、祖父はどんな想いで旅立ったのだろうと思うと、遺品の整理をしていた結迦の手が止まった。でも、無事に帰国し、祖父は運が強かったんだなって。

結迦が小学生の頃、「満州は寒かったぞ」と聞いたことだけは、覚えている。雪の中を行軍していると、眉が凍ってしまうのだとも言っていたっけ。たくさんの情報があふれる現代において、戦争のことについて想いを馳せてみると、複雑な心境になってしまうのも事実である。

バスツアー初日の午前中は、観光スポットをいくつか廻った。天守閣をイメージした朱色が際立つ駅舎であったり、街並みを散策すると、現代風できれいなのに、どこかロマンを連想してしまったり。天守閣を再現した展示物には、とても驚かされた。目を閉じれば、そのままワープしてしまうのではないかとさえ思われた。

まさに、豪華絢爛(ごうかけんらん)と称される艶(あで)やかな色彩のパワーが、その空間に渦巻いていた。柱や屏風(びょうぶ)などの圧倒的な存在感に、ただただ身を委ねるしかなかった。

この場所に信長公は座し、また天蓋から城下を見ていたのだろうか……想像していると、とても不思議な感覚が湧き起こってきたのも事実である。時間的に許されるのであったなら、あともう少し、その場にいたいと結迦は思った。

ツアーガイドさんの「はい、お時間で~す」というバスへの誘導の声かけが、なんともやるせなかったのである。できればもう一度だけでも、あの場所へ行ってみたいと思う結迦だった

その後、琵琶湖の湖畔でのランチタイムが待っていた。少し強めの風が吹いていたのだが、お天気がよかったため、テラス席でお弁当をいただくこととなった。

郷土料理的なメニューのお弁当には、結迦が初めて見る、口にする食べ物もあった。華やかなものを好んだという信長公のために、特産品となったのか、諸説あるようだが、「赤いこんにゃく」はお初の品であった。こんにゃくというよりも、ちくわぶのような食感を感じたものである。旅先での面白体験のひとつとして、記憶に残ることとなった。

いよいよ、目指すは安土城址へとバスは向かった。広い原っぱのような後ろに、こんもりとした山が立つその場所は、青空と木々とのコントラストが美しかった。

当時、約三年の歳月をかけて築城されたという安土城は、地下一階地上六階建てで、それまでの城にはない独創的な豪華絢爛な城だったことが推測されている。このお城の城郭、容姿は、信長公の天下布武を象徴し、広く知らしめるためのものだったとされている。しかし焼失により、現在は石垣のみが残り、国の特別史跡の指定を受けている。

  

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