第二幕  やさしい魔王復活 

こんな夜中にひとり、なんて馬鹿げたことを言っているのだろう……私は。いつもの変人ぶり丸出しで、でもどこかで、信長さまは叶えてくれるかもしれないという微かな期待を持っていたように思う。部屋はすっかりと冷えてきた。結迦は布団を頭までまるっとかけ、仰向けで臥床したのであった。

どのくらいの時間が経っただろうか。結迦の身体は、少し横向きになっていたかもしれなかった。ふと、瞼にふっと風を感じて、結迦は眠りから覚めた。息を吹きかけられたかのような感触に、

「えっ? 今のはなに? たしかに、瞼に風を感じたんだけど」そう思った結迦は、自分の唇を突き出して、息を吹いてみる。数回どうやってみても、自分の瞼に風が当たることは決してなかった。

「これって、もしかして……信長さまからのサインだったらうれしいなあ」そう思った結迦は心の中で、「本当にそばに来てくださったのでしょうか。信長さまと信じたいです。ありがとうございます」と言った。うれしかったけれど、結迦は布団から飛び出すことなく、満たされた心地よさで、ほどなく再び、眠りに落ちるのだった。

翌朝、目覚ましが鳴って起きた結迦は、まだ半信半疑なところもあったのだが、夜中の出来事を思い出しながら、出発の支度をしていた。窓から外を見てみると、快晴で青い空が広がっている。絶好のツアー日和にウキウキする結迦だった。

ホテルのチェックアウトを早々と済ませると、集合場所へと軽い足取りで向かった。結迦は添乗員に名前を伝え、バスに乗り込む。一泊二日のバスツアーが、無事にスタートとなった。

ツアーには、歴史に詳しい研究家の先生が同行されていたので、外の景色についての話や、信長公の話など、バスの中でもとても有意義な時間を過ごすことができた。せっかく話してくださった内容は、ほとんどが記憶に残ることはなく、それでも、参加してよかったと思った。

歴史自体には、さほど関心がなかったというか、血腥(ちなまぐさ)い話が苦手だったといえばよいだろうか。歴史好きだった祖父自身、戦争で海外へ出兵するも、大怪我をすることなく無事に帰国し、80歳目前で天寿を全うした。

父からも祖父母からも、戦争についての話はほとんど聞いたことがなかった。空襲警報が鳴ると近くの防空壕へ行った話は、何度か聞いた記憶がある。