ふと周りを見回すと、色鮮やかな民族衣装の女性たちが湖畔のあちこちに散らばってピクニックしている姿が目に入った。彼女たちが身に纏う赤、黄、青、緑、紫の色鮮やかな衣装は芝生のグリーンに映えている。

精一杯おめかしをして集団で遊びに来たという感じである。全員家族連れで、子供たちはイタリア語を話しているところを見ると、もうイタリアに居ついて久しい感じである。私に話し掛けてきた男性は自分たちはバングラデシュ出身だと言った。

「僕らはブレシアのメタル工場で働いています。あの町にはバングラ人は多いですよ。一杯います」

ブレシアはイタリア最大の湖、ガルダ湖の近くにある町である。バングラ人たちは全部で百二十人、大型バスを仕立ててこの町に遊びに来たというのだ。

どうやら社長とおぼしきイタリア人が傍にいた。しかもその日本語の出来るバングラ人は来週からドイツに働きに行くと言った。

どういう事情でイタリアからドイツに行くのかは分からなかったが、彼は日本、イタリア、ドイツと仕事のあるところを転々としながら世界中を歩き回っているらしい。それが特別でも何でもなく、人生そのものになっている。

彼らは芝生の上に広げたシートに座る時に履き物を脱いで周りに揃えて置いていた。ヨーロッパ人は決してこんなことはしない。

スマホのカメラを向けると彼らは集まってきて笑顔でカメラに収まった。フレンドリーな人たちだ。私は彼らに奇妙な親しみを感じた。

この町には同じイスラム教徒でも富裕層の人々も避暑に来る。私の滞在するB&Bのシニョーラから聞いた話だ。ある時アラブのどこかの国のプリンセスがお供と一緒にお忍びで遊びに来た。

そしてお供の者が一軒の靴屋の店主に人払いを命じた。やがてプリンセスが現れて店内をぐるりと眺め回して、壁の二面を占めている陳列棚の端から端までを指さしてのたもうたそうである。

「ここからこっちまで、全部買ったわ!」

そのプリンセスが若くて美しかったか、それとも中年で肥っていたかは分からない。どっちみち彼女たちはパンデミックであろうとなかろうとヴェールで顔を覆っているから、私たちはその姿を見ることはもちろんかなわない。

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