困り果てた八百万の神々は、天安河辺(あまのやすのかわら)に集まりこれからどうすれば良いか話し合った。

天の金山から鉄を取り出して八咫鏡(やたのかがみ)を作らせた。また八尺の勾玉を多数貫いた一連の数珠を作らせた。天の香具山の枝葉の繁った賢木(さかき)(榊)を掘り起こして、上の枝に八尺の勾玉の連珠を取り付け、中の枝には八咫鏡(やたのかがみ)を掛け、下の枝には楮(こうぞ)の白い幣(ぬさ)と麻の青い幣を垂らした。

この素晴らしい供え物を、天照大御神がお隠れになった天の岩屋戸の前に奉納した。

天の岩屋戸の前に天手力男神(あめのたぢからおのかみ)を隠して待たせておいた。

それから神楽が始まった。舞い踊るのは天宇受売命(あめのうずめのみこと)で、逆さまに置いた桶を強く足で何度も踏み鳴らしたり、大げさな演技をしたりして、次第に神懸かりの状態になった。女神の薄い着物から体の中が見えるたびに、神々からどよめきや笑い声が起こった。

拍手や叫び声で大変騒々しくなってしまい、神々はまるで天照大御神のことを忘れてしまったように思えるほど賑やかだった。

天の岩屋戸の中に閉じこもっていた天照大御神は、外があまりにも騒々しく、大きな笑い声や叫び声が聞こえてくるので、何事かとそっと岩屋を開けて外をうかがった。

天照大御神は天宇売受命に尋ねた。

「私がここに籠もっているので、世の中は真暗闇のはずだけれど、どうしてみんなは踊り唄い笑っているのですか」

「それは、あなた様よりも素晴らしい神様が現れたので、八百万の神々が喜んで酒盛りをしているのです」

天照大御神はもう少しのぞいてみようと扉を少し開いたところ、八咫鏡にキラキラと光り輝く神の姿が映し出された。自分の姿が映っているとわからずたいそう驚かれた。その時陰に隠れていた天手力男神が天照大御神の手を取って中から引き出した。