第一話 長老の予言
3 みくさの爺の話
トモミは小碓と長老の話を聞きながら驚いていた。いつも二人で遊び回っている小碓がそんな大変な人になるという。爺の言葉は決して嘘ではないことを知っているのだ。
長老は続けて言った。
「今この時代にも世の中のことを詳しく知っている人たちがたくさんいます。その人たちに直接会い、教えを請うことにより、新しく正しい知識を身につけていただきたい。そうすれば、この国や民に何が必要なのかわかるようになります。
この国を一つにまとめて、豊かな国を創りあげていく。その後にこの国は大きく発展していきます。住む人たちが平和で豊かになれば、きれいな水が流れ込んでくるように、大事な思想、歴史、その他多くの知識、それらを記録する文字などが次々にこの国にやってくるはずです」
みくさの爺は、しばらく話したのちに
「今日はここまでにしましょう。もう休みなさい、明日も大事な話をしなければいけないからね。明日も小碓様にもかかわる大事な話が残っております」
4 三種の神宝
小碓は、初めて山の洞窟の中で一夜を過ごした。外では春の嵐が来ていたのか、昼の穏やかな天気が一変して、すさまじい風の音が一晩中鳴り響いた。洞窟の中は意外と暖かく、山旅の疲れもあり二人はぐっすりと朝まで眠った。
翌朝は、薺(なずな)、すずな、芹(せり)、すずしろなど春の野草がたくさん入った粥を、みくさの爺が作り二人に振る舞ったのである。また雉(きじ)の乾し肉を火で炙ったものも用意されていた。雉はこの山の中にもたくさん巣を作っている。美味しい朝の食事で腹いっぱいになってから、また爺の話が始まった。
「今日は、大事な三種(みくさ)の神宝(かむたから)について話していこう。小碓様は、大王家に伝わる三つの宝物を知っておられるか」
小碓は突然の問いに驚いた。
「大王の大切な倉には、そのような貴重なものがあると聞いたことがありますが、大王をはじめとしてどなたもそれを直接見たものはいないと伝えられています。見れば目がつぶれると言い伝えられています。ですからどのようなものか想像すらできず、まったく知りません」
みくさの爺は、小碓の話を頷きながら聞いていた。そして重々しく口を開いた。
「この三種の宝は神々の魂そのものであり、神々の大いなる霊力そのものが秘められているのです。この国の大王のおられるところに存在するものなのです」
小碓は、物心のついた頃には既に父親が大王として君臨していた。従って、三種の神器が伝えられる大王となる儀式は見ていなかった。この神宝のある場所が、大王の存在を示すものだという。
三種の神宝とは、鏡【八咫鏡(やたのかがみ)】、玉【八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)】、剣【天叢雲剣(あめのむらくものつるぎ)】をさしている。
爺はこの神宝のいわれについて話し出した。