「力を合わせてこの国(大八州)を産み終えた伊邪那岐命と伊邪那美命は、この国に必要なありとあらゆるものを準備した。またたくさんの神々を産まれた。伊邪那岐命は、最後に三貴子(みはしらのうずのみこ)を誕生させた。
左目をお洗いになられて天照大御神(あまてらすおおみかみ)、右目をお洗いになられて月読命(つくよみのみこと)、そして鼻をお洗いになられて建速須佐之男命(たけはやすさのおのみこと)(以下、須佐之男命(すさのおのみこと))がお成りになったのである。
伊邪那岐命は大いに喜んだ。天照大御神は、高天原(たかまがはら)を治める日の神となれ。月読命は夜の世界を治めなさい。須佐之男命は海原(うなはら)を治めるように命じた。それぞれの命(みこと)に役割を決められたのである。
その中で須佐之男命だけは、命じられた海原を治めようとせずに、朝から晩まで大声で泣いて暮らしていた。もう大きく成長して、年を取り髭もずいぶん伸びてきたのに、ワーワーと泣き続けていた。
そこで伊邪那岐命は須佐之男命に尋ねた。
『お前は命じられた海原を治める仕事もしないで、どうしていつも泣いてばかりいるのだ』
須佐之男命は泣きながら答えた。
『私はお母様に会いに、根の堅洲(かたす)国に行きたいのです。それがかなわずにこうしていつも泣いているのです』
それを聞いた伊邪那岐命は、
『私の言うことを聞かないのなら、お前の好きなようにどこへでも行くが良い』
と仰せられ須佐之男命を高天原から追放したのである。
須佐之男命は天上界から去る前に、姉である天照大御神に挨拶をしておこうと高天原に向かった。須佐之男命が天に上ろうとすると大地が揺るぎ地響きがみられた。
これを見ていた天照大御神は、
『弟が私の天上界を奪おうとしてやってきているに違いない。そうはさせるものか』 そのときの天照大御神は、全身の完全なる武装をして待ち受けた。弓矢を振り立て、地面を両足で強く踏ん張りながら、須佐之男命に強く問いただした。」
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