【前回の記事を読む】命を懸けて彼女を救ったのは、かつての幼なじみ——小碓の槍が大猪を貫く
第二話 機織り工房の皇女
5 小碓とフタジ
翌日、夕陽が二上山に沈むころ、フタジは箸墓の周りの池にある大きな松の木の下に来ていた。纒向の人里からやや山手にあるので、出会う人も少なかった。
池のほとりから見える二上山に落ちる夕陽は、いつ見ても息をのむほどに美しかった。今日はこの場所に来るようにと小碓が言ってきたのである。
あたりが徐々に暗くなってきて心細くなった時だった。突然後ろから目を覆われたのである。
「お姫様、誰でしょう」
「もう、びっくりするではないですか、今日は何の用ですか」
振り返ると、おどけた顔の小碓だった。「びっくりさせるんだから」と寂しかったせいもあり、小碓の胸に飛び込んでいた。
しばらく抱き合っていたのだが、ふとこれはいけないとフタジは手をほどき、真面目な顔をして「今日は、どのようなお話でしょうか。着ている服のことなら、心配しなくても良いですよ。伊勢から帰ってきて、時間があったので暇つぶしに作っただけなのですから」