【前回の記事を読む】「あなたが大好きだった。これ以上離れていることは我慢できない」——彼の話を聞き、私は涙が溢れて止まらなかった

第二話 機織り工房の皇女

5 小碓とフタジ

フタジは小碓の気持ちがわかったのか、真面目な顔で答えた。

「小碓様、私も小さいころからあなたが好きで好きでたまりませんでした。いつも私を助けてくれるのが、不思議でしたがいまの話を聞いてよくわかりました。私はあなた様に守られて本当に幸せものです。

これからも私のことをずっと守ってくれるのですね。あなたの言うことはどんなことも聞きます。妻にしてください」

二人は、強く抱きしめ合いしばらくそのまま動かなかったが、やがてその場に倒れていった。周りはすっかり暗くなり、夜空には無数の星が煌めき、流れ星が次から次と二人に降り注いでいた。あたりを心地良い春の夜風が吹き抜けていくのだった。

  

第三話 大碓と小碓

1 美濃の国の美姉妹

大王が纏向の宮殿に帰ってこられた時は、五日に一度大王を囲んで一族が揃い、朝と夕の食事をとるのが決まりだった。大王には多くの皇子がいたが、世継ぎになれるものは厳格な決まりがあり、母親の身分、出自により決められていた。

大王と一緒に食事ができるのは、日嗣(ひつぎ)の皇子の資格のあるものとその母親(皇后、王妃)だけであった。

当時大碓 (おおうす)と小碓(おうす)兄弟の皇子以外には、若帯日子命(わかたらしひこのみこと)(後の成務天皇)、五百木之入日子命(いおきのいりびこのみこと)の二人が大王の後継者である太子(ひつぎのみこ)となりうる資格があったのである。

その中で、大碓と小碓の母は伊那毘能大郎女(いなびのおおいらつめ)といい、その他の兄弟と一緒に仲良く暮らしていた。

双子の兄大碓は、小碓と異なり人と争うことが大嫌いだった。遊び仲間の子供たちといつも取っ組み合いの格闘をしたり野山を走り回って体に傷痕の絶えることのない小碓とは異なり、犬、猫、兎などの動物を可愛がる心優しい人となりだった。

そのころの大王は何時も戦いに明け暮れており、世継ぎの第一人者とされる大碓の軟弱な性格が不満だった。

そのころ美濃の国(今の岐阜県)の国造(くにのみやつこ)の祖となる大根王の娘にたいそう美しいと評判の姉妹がいた。愛姫(えひめ)と乙姫(おとひめ)という名だった。

大王はこの姉妹を側室にするために、大和に来るように命じていた。命令を下して半年もたつが、その国からはまったく音沙汰がないままであった。もしかしてかの地の反乱の可能性もあると考えた大王は、大碓に姉妹を連れてくるようにと命じた。一緒に百名ほどの強力な兵士も同行させた。

戦うことが嫌いな大碓でも、大王の命令には背くことができない。大和纏向日代の宮から、現在の岐阜県、美濃の国に向かったのである。

夏の暑い行軍だったが、数日後山深い美濃の国にたどりついた。大碓には気がすすめとまない仕事だった。たくさんの妻妾を娶(めと)り、皇子だけでも二十人以上を産ませた大王が、この上さらに若い娘をはべらせようと画策しているのだ。

いくら大王でも女狂いはいい加減にしろと言いたかった。大碓本人は父親に対する反発か、これまで若い女にまったく興味がなかった。

美濃の国の居城に入った大碓は、今回の来訪の目的を大根王に伝えて、反乱の意図がないのか尋ねた。大根王は大王に忠誠を誓っており、二心はないことを何度も繰り返した。しかし二人の娘たちに関しては、どこにいるのかまったく知らないと言うのだった。

大碓は大根王の居城には滞在せず、少し離れた兵士たちの宿営地に戻って、今後どうするか考えることとした。