吉田は、タカマノハラと読ませるには注の必要はなく、注はなくても読めた当時の言葉であり、天を阿麻(アマ)という古い読み方で読ませるためにこそ訓注があると主張した(傍線は筆者、以下同じ)。
さらに、吉田は「天」の訓法について分類した。
第一に、天の下に之を加えたもの。
第二に、 天の下に之は書いていないが、語の性質上、下の語の所有格を表して天ノと読まなければならないもの。
第三に、人名、地名を表したもの。
第四に、ノの代わりに同じく所有格のツを持つもの。
第五に、「天神」のようにツはなくともツを入れて読んだと思われるもの。
第六に、 一から五以外のもの(天照大神などの五~六語のみ)
として、それぞれに応じ、アマ、アマノと読むべきか、アメ、アメノと読むべきかを判別している。
この結果や「訓天如天」の注記、高天原の「訓高下天云阿麻」の注記などから、アマの次にノを入れずに訓むべき点を主張した。
そして、宣長も指摘するように、「高」は高いという用言ではなく体言であり、また「高天原」も一つの固有名詞であることから、所有格を表す助詞のノを入れるべきではないし、それゆえタカマという連声(れんじょう)(注5)で読むことも正しくないとしている。
注1『例解古語辞典』第三版 顧問 佐伯梅友 編者 小松英雄他 三省堂 1994
注2 ①『最新全訳古語辞典』編集 三角洋一・小町谷照彦 東京書籍 2006
《「たかあまのはら」の変化した語。「たかまがはら」ともいう》日本神話で天照大御神をはじめとする神々が住むと言われる天上世界
② 『新明解古語辞典』監修 金田一京助 編集 金田一春彦 三省堂 2003
《「たかま」は「たかあま」の約》天孫種族の祖国で天上にあるというもの。天つ国。
③『ベネッセ古語辞典』編集 井上宗男・中村幸弘 ベネッセコーポレーション 1999
《「たかま」は「たかあま」の約》日本神話の神々が住む天上世界 (以下略)
④ 国語大辞典『言泉』小学館 1989「たかあまのはら」の転 「天上界、神々の住んだところ」、「転じて天空」
⑤『新編大言海』大槻文彦 冨山房 平成4年「たかまハたかあまノ約」。原は廣き義、[天原ヲ高キニ就キテ云フ語] ⑴天ト云フ同ジ。アマノハラ。オオゾラ。⑵天ツ神ノ坐シマストコロ。アマツクニ。
注3『古典基礎語辞典』編集 大野晋 角川学芸出版 2012 p703
注4「古事記の訓注について」吉田留 『國學院雑誌』昭和16年1月 p42~55
注5 二つの語が連接するときに生じる音変化の一つ。前の音節の末尾の子音が、あとの音節の頭母音(または半母音+母音)と合して別の音節を形成すること。「三位(さんい)」を「さんみ」、「因縁(いんえん)」が「いんねん」など。
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