第一部
出逢い
過去のトラウマというのは不思議なもので、年月が経とうとも、頭で整理ができていても、同じ状況や人物でなくとも、心というのは正直、そんなこととはまったく関係なく勝手にトラウマである出来事に直結してくるのだ。それは、私のような性の分野でのフラッシュバックに限らず、トラウマとなる出来事を深刻に抱えている人は悩み苦しんでいるのではないだろうか。
私の場合ではあるが、私が克服できたのは本当にたまたま運が良かっただけだと思っている。
相手が一樹ではなかったら、もしかしたら無理に関係を迫ったり、初めは理解を示していてもいつまでもその状況が続くと、だんだんと嫌気がさして別れる男性は多いかもしれない。
その別れが、どちらが悪いわけでもないのに当人は自分のせいだと責めてしまい、その別れによって更にトラウマになり、男性と交際することはやっぱり無理なのだと絶望したまま人生を送っていたかもしれない。
私は大きな壁のひとつを乗り越えられたけれど、もちろんそれからはもう大丈夫というわけではなかった。
忘れかけた頃にまたフラッシュバックが起きることもありながらも、何年も月日を費やし、互いに諦めず努力し、歩み寄っていくことで、一樹との関係が深まっていくことが単純に嬉しかった。
興味本位なのか、身勝手な欲望でそういう行為をする人間がいる一方で、一樹のような人もいるということ。
きっとそれは一樹だけじゃなく、そんな優しい人がこの世界のどこかに必ずいると私は信じたい。
希望を捨てないでほしいなんて、そんな軽率なことは言えないけれど、決して諦めないでほしいと伝えたい。