行く当てもない以上、駅から出て近くの公園で暗くなっていく空を黙って座って見ていることしかできなかった。
もちろん自分が今何をしなければいけないのかは分かっていた。
でも時は待ってはくれない。
私の気持ちや焦りに関係なく、無情にも時間というのは過ぎていくのだ。
そして日が沈み、母親から携帯に着信が入り始めてしまった。もちろん電話に出ることはできなかった。
出たところで、私はなんと言えばよいのか。
何一つ言葉が出てこない。言葉が見つからない。
また責められるのも、あの地獄の生活に戻るのももう懲り懲りだと思った。
父からも着信が入るようになり、このままどこかへ消えてしまいたいと思った。
両親からの電話に戸惑っているうちに、気づくと夜8時になり、結果的に私は一樹のアパートへ戻るしかなかった。
戻ってきた時、初めて一樹は怒った。
「なんで戻ってきたの!」
私は、初めて人を頼った。すがるような気持ちで一樹の元へ戻ったのに、一樹に怒られたことで私にはやはりどこにも居場所はないのだと思えて、涙が出そうになった。
鳴りやまない着信。放置していても解決しない。
一樹が電話に出てくれた。
そして「今日はとりあえずそこに泊めさせてもらって、明日薫を連れて家に来てほしい」と父は言ったそうだ。
私は、家出する気はなかったのに些細なキッカケでとんだ大騒ぎになってしまった。
でももう本当に限界だったのだ。
翌日、彼と電車で私の実家の最寄り駅まで行き、父が迎えに来てくれていた。その日が、7か月付き合ってきた一樹と父の初対面だった。
【前回記事を読む】フラッシュバック。彼はあの人じゃないし、あの日触られたところでもないのに、どうして…好きなのに、震えと恐怖が止まらない。
次回更新は1月11日(土)、21時の予定です。
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