第1章 闇の入口

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少し間延びした声を掛けながらドアノブを回し、ゆっくりと足を差し入れる。爪先を滑らせてから中を覗いた。部屋は暗く、リビングからの光が一筋寝室に差し込み、帯を作っている。そしてそれを広げるように僕は扉を開いた。

「大丈夫か?」

返答はない。

「おばさんがな、お前の様子を見てくれってさ」

光の帯はお前の布団を照らし出した。がらんどうな部屋に一組布団が敷いてあり、中がこんもりと膨らんでいる。僕はお前が寝ているという事にようやっと安堵し、近付いて電気を点けた。シンプルなデザインの掛け布団が僅かに蠢(うごめ)き、中からくぐもった声がする。

僕は側に寄ってしゃがみ込みお前の顔を見ようとしたが、頭まですっぽりと布団を被っている為わからなかった。

「な、顔出せるか?」

支度をしたがらない幼児を待つ親の気持ちでじっと布団を見つめるも、動きはなかった。

やはり一人がいいのだろうか。

僕はどうすればいいのだろうか。

布団越しにお前の体に手を添えた。

途端に、お前が呻(うめ)いた。

僕は驚いて名前を呼び、体を揺すった。布団の合わせ目が口を開き、お前の頭が見える。何が這い出てくるのか、僕は未知との遭遇であるような気がして、その頭を見つめた。

浅い呼吸を吐き出しながらお前が顔を出す。