第1章 闇の入口
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ひゅうひゅう、ひょうひゅう、ひゅうひゅう、ひゅうひゅう、ひょうひゅう、ひゅうひゅう、ひゅうひゅう、ひょうひゅう、ひゅうひゅう、ひゅうひゅう、ひょうひゅう、ひゅうひゅう、ひゅうひゅう
虎落笛(もがりふえ)
窓から見える大木と電線が揺れている。
土曜日、スマホの時刻は十八時五十五分を表示している。お前はまだこない。
スマホを手に取って立ち上がり部屋を出、床暖房なんてない冷えた廊下を進んで玄関を覗いたのももう何度目だろう。途中愛猫(あいびょう)が定位置で両手を伸ばして寝ているのが目に入る。少しだけその尻を突ついて指の第一関節が埋まる事に甲高い声を出して名前を呼ぶ。愛猫は見向きもしない。
玄関は物音一つせず、その扉の向こうにお前の気配はなかった。
僕は手にしたスマホにまたもや目をやったが、そこには着信のお知らせも新着メッセージもなかった。
玄関から適当な靴を選んで足に突っかけるとドアノブに手をかけて扉を開く。放射冷却で気温がぐんと下がり、初雪も観測した。斬り込むような冬の冷気が体一つ分開いた隙間から突撃してきた。
武装した冬将軍の攻撃を受けながらも身を乗り出して目当ての人物を探したがやはりそこには見当たらず、粉雪だけが静かに舞い降りている。僕は諦めて扉を閉めた。
室内に戻ってもう一度愛猫を探すと先ほどとは違う体勢で深く眠っており、柔らかい腹毛がエアコンから吹き出す温風に当てられてそよいでいる。
時刻を確認した。
十九時。
遅刻である。
僕はスマホのロックを外してお前のアイコンをタップ、呼び出してメッセージを送った。
一分待ったが既読は付かなかった。
更に一分待ったが既読も着信もなかった。
もう一度玄関を覗いたが、やはり物音一つ気配すらなかった。
数通まとめてメッセージを送った。
注意、怒り、心配、呼び掛け。
二分待った。
何の反応もなかった。
今夜の配信まであまり時間がない。お前が来られないなら、事前にリスナーに報告しておかないと無駄に心配させてしまう。
今日はお前なしのソロ配信になるのか。