頭にはまだ包帯が巻かれていた。
右目の眼帯も五日前と同じだった。
眉尻から鼻梁に向かって走る傷を覆うガーゼは新しく取り替えられたようだった。
鼻と口元はマスクで隠れていた。
開いた左目は血走っていた。
涙で濡れていた。
僕はそっと体から手を離し、涙を拭ってやろうと僅かに露出した左頬に指を伸ばす。お前は身動(みじろ)ぎをしてそれを拒んだ。
嫌なのか。
僕が。
「痛いのか?」
拒絶された事に僕は吐き出す息を震わせ、問うた。お前は相変わらず黙(だんま)りを決め込んだまま、俯いている。
膠着(こうちゃく)状態がしばらく続き、僕を拒絶するお前を前にどうにも出来ないでいた。
自分の歯が軋むのを感じた。それは焦りの現れだった。
お前の怪我の理由がわからない。
お前の拒絶の理由がわからない。
僕は今どうしてやればいい。
お前にどうしてやるのがいい。
放っておくのがいいのか。
いつまでそうしていればいい。
一週間か。一カ月か。半年か。一年か。十年か。
どうして僕に何も話してくれない。
僕とお前の仲はそんなものだったのか。
内に閉じ籠り言葉すら発しないお前に、自分の居場所がなくなってしまう絶望感を抱いた僕は、肺一杯に吸い込んだ酸素を吐き出せるだけの声量に乗せてわめき散らした。
不満。不安。焦燥。鬱憤(うっぷん)。疑問。恐怖。混乱。苦悩。苛立。
侘しい洋間六畳に響き渡る僕の大人気ない慟哭(どうこく)。
「構ってちゃんとか僕嫌いなんだよ。ほっといて欲しいなら一生そうしてろ」
寝室から足音を荒げて出た僕はリビングを通り、廊下を進む。その時、ふと違和感を覚えた。何か、寂しいような気がしたのだ。廊下の壁に目を這わせ、肩口からゆっくりと背後を見やる。音のない部屋が鎮座していた。