第1章 闇の入口
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建築系の会社に勤めている僕達は、技術的な専門知識を活かしてクライアントの理解度に応じプレゼンし、提供・施工して行かなければならない。
簡単に言うが、クライアントって言うのは人間で僕らも人間だ。そこには血で血を洗う戦いがあって、まぁ、泥仕合いなんてのもある。僕はパソコンに向かう彼のずんぐりとした体を見ながら、どこか遠くの方で電話が鳴っている音を聞いた。
そして事件が起きた。
僕が起こしたのではない。
僕の後輩が持って行った資料に不備があり、クライアントとの間にトラブルが起きてしまったと言うのだ。
相手は彼に大きな期待を感じていたのか、それともただ食い違う説明に苛立ちを覚えたのか。
ともかく、彼は広い肩幅を縮こまらせながらオフィスの扉を力なく開けて帰って来た。
事態を知った何人かが慰めの言葉を掛け、説明を求める上司の元に向かう彼の重い足取りを聞いた。
僕は。
上司の前でしっかりと前を見据えている彼の小さな体を見ていると、自分の居場所がどんどん狭まって行くのを改めて感じる。
彼は僕を恨むだろうか。
彼は僕を蔑(さげす)むだろうか。
彼は周囲に僕の確認不足を吹聴(ふいちょう)して回るだろうか。