話が済んだのか、彼が自分の席に着くの見て僕は胸が詰まる思いがした。視線が合うことはなく、彼は太い首を竦めながらパソコンに顔を向けている。何か声を掛けた方がいいだろうかと思案し、幾つもの言葉の案が浮かんでは消え、喉まで出かかっては噛み砕いて飲み込み、結局何も言い出せないまま自分の仕事に戻った。
役立たず。
ぼんくら。
そう罵られた気がした。
鼓膜の奥で羽虫が飛んでいる。低く唸りを上げて群れをなしている。僕の細い体の中に詰まった内臓が、ベルトに締め上げられて悲鳴をあげている。
瞼(まぶた)が数回痙攣(けいれん)し、パソコンの画面が二重に見えた。
背後を同僚が何やら話しながら通り過ぎて行き、それは僕には何の関係もない話だったのだけれど、僕の脳味噌と耳は過敏に反応する。胃の中に鉛が詰め込まれているようだった。
ポケットに手を忍ばせる。
振動は感じられなかった。
少し、あの子の様子見てもらえる? 今日家に行って色々掃除したり、病院に付き添ったりしたんだけど。あの子あんまり喋らなくて。事故なの? 本当に? 悪い様子だけど。酔っ払って転んだにしては、ちょっと。ええ、でも何だか本当に酷い怪我だよ。先生はいい人で、ちゃんと診てくれてるけどね。でも何だか怖いよ、見てて。私もね、あの子と離れて暮らしてるからさぁ。
きっとあんたの方がいいんじゃないかな。どうだろう、ご飯は食べられないみたいだから。だってほら、口がああでしょ。本当に、酔っ払いはダメだね、悪い所しっかり似ちゃって。会ったこともない癖にさぁ。うん、うん、ごめんね、迷惑かけるわね。でも私、何だかあの子が遠くに行っちゃいそうな気がして怖いんだ。