一見、無機質で表情のない物体だが、今や二百万人に及ぶ全国民の祈りが込められている。急激な気温の低下により日常の生活はことごとく毀損していた。暖房用の資源が住まいに供給されない。

食料の備蓄が減少している中で補給ルートが分断されてしまっていて、たまに配給状況が伝えられてもその場所が遠方となると、どうしようもない。移動手段がないためだ。無理をして外出しても生きて帰宅できるのかが深刻な問題となっている。

今まで当たり前のように、当然の権利としてできていたささやかな行動まで、大きな制限として目の前に立ちはだかっていた。

以前、その星の国民の多くは宇宙開発とかロケットの性能とかはどうでも良いと考えていた。自身の生活に直結していないため身近な出来事とは考えていなかった。しかし、今は違う。食料が底をつきかけていて、飢えと寒さで自身が生死の淵に追いやられてしまっている。この事態を何としても解決し、以前の生活を取り戻したいという全身全霊の願いが十機のロケットに込められていた。

先頭のロケットに並んだパープルの竜は、そのサイズを確認し徐々に巨大化した。ロケットと同等のサイズになり、ゆるゆると接近した。機体の先端に二本の前足を掛け、身体をぐるりと巻き付けた。

ぐいぐいと締め付けた。強い力で締め付けた。

筒はグニャッと変形し、制御不能となった機体は宇宙空間の底に落ちていった。

十機のロケットは見えなくなった。国民の願いを一身に担ったその十機のロケットは、目的地に到着する前に全数が破壊されてしまった……。

それを見た女王は微笑むと霧状に見える特定物質の濃度を上げ、マゼラン銀河第三番惑星の気温をさらに十度ほど低下させた。

  

【前回記事を読む】沢山の緑に覆われた星、マゼラン銀河第三番惑星。しかしこの惑星を植民地とする為に原住民族を葬り去ろうとする女王がいた...

   

【イチオシ記事】ホテルの出口から見知らぬ女と一緒に出てくる夫を目撃してしまう。悔しさがこみ上げる。許せない。裏切られた。離婚しよう。

【注目記事】「何だか足がおかしい。力が抜けて足の感覚がなくなっていくような気がする」急変する家族のかたち