「幼子を救うのも魔の手に落とすことも、英良様の今の意志次第で御座いますぞ。手遅れにならないうちに幼子をお救い下され英良様」嫌な記憶を振り払うように、英良は布団をかぶり寝返りをうちそのまま深い眠りに就いた。
翌朝は非番で午前八時に英良は起床した。コーヒーを飲みながら何も考えずにぼんやりしている。休みの日はいつもこのように過ごす。今日は本を読み一日を過ごすことにした。仕事も何もない日、雑事から逃れ浮世から隔絶された自分だけの空間に居ることが至福の時だと英良は思う。
朝だというのに気のせいか薄暮のように感じる。午前中は久しぶりに本屋へ行き新刊コーナーを見て回った。この日は一冊の単行本を買い帰宅し少し読んでいると睡魔に襲われいつの間にかソファーの背もたれに頭をのせうとうとした時だった。
何かの気配と視線などを感じ視線の方を見ると英良の護り仏である毘沙門天が傍に佇んでいた。英良は睡魔に打ち勝てずに夢見心地で毘沙門天を見ていた。
「英良様」毘沙門天が声を掛けた。
英良が驚いた表情で見ていると、「我の言葉が届きますか?」毘沙門天は続けて言う。聞こえる、と英良は答えると毘沙門天は軽く頷いたように見えた。
「英良様、幼子のことはお忘れでは御座いませんか?」毘沙門天は英良の現在の心中を見逃さず諫言した。
忘れてはいない、と英良は答えた。「左様に御座いますか。それでは今の幼子のことをご報告申し上げます」英良は頷く。
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